CQRSとEvent Sourcingの基礎
公開日: 2025/06/03
CQRSとEvent Sourcingの基礎:複雑なドメインをスマートに扱うアーキテクチャ
はじめに
高い可用性やパフォーマンス、複雑なドメインロジックへの対応を求められるシステムにおいて、「CQRS」と「Event Sourcing」は有効な設計アプローチです。
本記事では、それぞれの概念と目的、基本構成と組み合わせたときの利点・注意点について基礎から解説します。
基本情報・概要
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CQRS(Command Query Responsibility Segregation):
「読み取り(Query)」と「書き込み(Command)」を分離することで、スケーラビリティと責務の明確化を図る設計手法。 -
Event Sourcing:
オブジェクトの現在の状態ではなく、過去のイベントの履歴(イベントストリーム)から状態を導出する手法。
両者は独立して使えますが、組み合わせることで**高い柔軟性・監査性・スケーラビリティ**を実現できます。
比較・分類・特徴の表形式まとめ
項目 | CQRS | Event Sourcing |
---|---|---|
主な目的 | 読み書きの責務分離と最適化 | 状態遷移の履歴保存と再構築 |
実装構成 | CommandモデルとQueryモデルの分離 | Eventログ → アグリゲートへの反映 |
状態の管理方法 | 書き込みはモデル更新、読み込みは別ビュー | 現在の状態 = イベントを逐次適用して導出 |
利点 | パフォーマンス改善、読み取りの柔軟性 | 監査対応、巻き戻し可能、変更履歴が明確 |
課題 | モデルの二重管理、整合性維持の設計が必要 | イベントスキーマ設計、再生のコスト・複雑性 |
深掘り解説(それぞれの構成)
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CQRSの例:
// Command(状態変更) POST /users/register → ユーザー登録 // Query(状態取得) GET /users/active → アクティブユーザー一覧取得
- 書き込みは業務ロジックを通じて行われ、整合性と権限チェックに重点
- 読み取りは高速化・整形済みビュー(リードモデル)に特化
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Event Sourcingの基本構造:
// Eventの例 UserRegistered { id, name, email } UserEmailChanged { id, newEmail } // 状態の再構築 let state = new UserState(); for (const event of userEventStream) { state.apply(event); }
- 状態(エンティティ)はイベントから構築され、DBに保存する必要はない
- イベントは時系列に記録され、何が「いつ・誰によって・なぜ」起きたかを追跡可能
応用・発展的な使い方
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CQRS × Event Sourcingの統合:
- Command処理時にイベントを生成 → Event Store に保存 → Query側に反映(イベント駆動更新)
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イベントバス(Kafka, RabbitMQ)を用いた非同期処理
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読み取りビュー(プロジェクション)の複数定義(一覧ビュー、統計ビューなど)
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スナップショットの活用でイベント再生コストを削減
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マイクロサービスと親和性が高い(サービス単位で完全分離できる)
よくある誤解と注意点
- CQRSやEvent Sourcingは「何にでも使える」わけではない:複雑性が高くなるため、本当に必要な場合だけ導入
- Event Sourcingを使うと「DB設計が不要になる」わけではない:読み取り側にリレーショナルなプロジェクションが必要
- イベント設計(粒度・命名・バージョン管理)が適当だと将来的な変更コストが爆増する
まとめ
CQRSとEvent Sourcingは、責務分離と履歴重視のアプローチによって、柔軟かつ高品質なシステム構築を実現する設計パターンです。
ただし導入には複雑性・運用コストも伴うため、ドメインの複雑性・整合性要件・監査性などを考慮し、段階的に設計・導入していくのが現実的です。