バリュエーション
公開日: 2025/06/13
バリュエーション(Valuation)
はじめに
スタートアップにおいて資金調達を行う際、必ず向き合うことになるのが「バリュエーション(企業価値評価)」です。これは単なる数字ではなく、成長性・競争優位性・チーム力・将来の期待値を反映する指標であり、投資家・起業家双方にとって戦略上の重要判断基準となります。
本記事では、バリュエーションの基本概念、算出方法、交渉の考え方について整理します。
バリュエーションとは?
バリュエーションとは、企業の現在または将来の価値を金銭的に評価する行為です。
- スタートアップでは、明確な収益や資産がないため将来期待に基づく評価が中心
- 調達においては、ポストマネー/プレマネーの概念とセットで語られる
評価額=自社の可能性への“値札”であり、投資家との信頼と交渉の起点です。
プレマネーとポストマネーの違い
用語 | 意味 |
---|---|
プレマネーバリュエーション | 資金調達前の企業価値 |
ポストマネーバリュエーション | 調達後の企業価値(=プレマネー + 調達額) |
例)プレマネー¥5億で¥1億調達 → ポストマネーは¥6億、出資比率は16.7%(1/6)
主な評価手法(スタートアップ向け)
手法名 | 概要・特徴 | 適用フェーズ |
---|---|---|
コンプ(類似企業比較) | 類似スタートアップの取引実績やバリュエーションを参考に設定 | プレシード〜グロース期 |
DCF法(割引キャッシュフロー) | 将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて評価 | レイターステージ(予測可能性が高い場合) |
マルチプル法(ARR, EBITDA) | 売上や利益指標に業界マルチプルを乗じる | シリーズB以降 |
Berkus法 | チーム・プロダクト・市場性などの質的要素に点数付け | シード前後 |
VC法 | Exit時の想定利益から逆算して現在の価値を算出 | プレシード〜シリーズA |
早期ほど“定量より納得感”、後期ほど“収益ベース”の評価が強まります。
投資家が評価する観点
観点 | 内容例 |
---|---|
チーム力 | 創業メンバーの実績、再現性、リーダーシップなど |
市場規模 | TAM(潜在市場)/SAM(実行可能市場)/SOM(現在ターゲット) |
ビジネスモデル | 単価・継続率・LTV/CAC比・利益構造など |
プロダクト適合 | PMFの有無、継続率、ユーザーフィードバック |
競合優位性 | 技術的優位、参入障壁、ブランド、ネットワーク効果など |
“将来像”に説得力があるかどうかが初期ほど重視されます。
よくある誤解と注意点
誤解・落とし穴 | 実際のポイント |
---|---|
バリュエーションは高い方がよい | 希薄化・次回調達・Exit可能性を見越して設計するべき |
評価額は定量的に決まる | 初期はチーム・プロダクト・シナジーなど定性評価が強い |
前例(他社比較)で十分 | 自社の事業モデル・構造に即した根拠が必要 |
バリュエーション交渉の心得
- 投資家との対話では将来のビジョン × 実行力を明確に伝える
- **「なぜこの金額なのか」**を、数値・ロジック・競合比較で示す
- 高すぎても低すぎても良くない(次ラウンドの調達を想定した設計が鍵)
- 希薄化率や優先株の条件も含めて、“経済条件全体”で評価すること
まとめ
バリュエーションは、スタートアップの「今の実力」と「未来への期待値」を映し出す鏡です。単なる数字ではなく、投資家との信頼構築、資本政策の設計、成長ストーリーの裏付けとしての意味合いを持ちます。フェーズごとに適切な根拠を持ち、納得感のある評価と交渉ができることが、経営者としての資質にもつながります。