ユニットエコノミクス
公開日: 2025/06/16
ユニットエコノミクスとは?スタートアップの持続的成長を左右する収益モデルの構造理解
はじめに
スタートアップやSaaSビジネスの成否を見極めるためには、「グロス売上」や「成長率」だけでは不十分です。
本当に見るべきなのは、1人の顧客がもたらす収益とコスト構造の健全性──それを示すのが「ユニットエコノミクス」です。
本記事では、ユニットエコノミクスの定義、構成指標(LTV/CAC/チャーンなど)、分析方法、実務での応用を包括的に解説します。
基本情報・概要
ユニットエコノミクス(Unit Economics)とは、1ユーザー(または1件の取引)あたりで発生する収益とコストのバランスを分析する考え方です。
- 「顧客1人あたりの経済性」をモデル化し、事業全体の収益性を評価
- 売上・利益ではなく、構造の健全性=スケーラビリティの有無を測る指標
- 投資家も注目するKPI設計の出発点
比較・分類・特徴の表形式まとめ
構成要素 | 指標 | 内容 | 理想水準例 |
---|---|---|---|
顧客価値 | LTV | 顧客生涯価値:継続利用期間 × 利益率 × 単価 | CACの3倍以上 |
獲得コスト | CAC | 顧客獲得のための総コスト ÷ 新規顧客数 | ARPUに対し回収可能な水準 |
離脱の影響 | チャーンレート | 解約率:顧客や売上の自然減少率 | 月次1〜3%以下 |
回収速度 | CAC Payback Period | CACを回収するまでにかかる月数 | 12ヶ月以内が目安 |
深掘り解説
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なぜユニットエコノミクスが重要か?
- 成長していても“赤字の構造”であれば持続できない
- LTV/CAC比率などでマーケや営業の投資効率が可視化される
- 投資家とのコミュニケーションで資本効率を説明するために不可欠
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モデルの作り方(BtoB SaaSの例)
- 単価(ARPA):¥50,000
- 粗利率:80%
- 平均継続月数:24ヶ月
- ➤ LTV = ¥50,000 × 0.8 × 24 = ¥960,000
- CAC:¥300,000(広告・営業・ツールを含む)
- ➤ LTV/CAC = 3.2倍(健全)/CAC回収期間=約6.25ヶ月
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フェーズ別に見るべき指標
- プレシード〜シード:解約率、CVR、初期LTV仮説
- シリーズA:CAC、Payback期間、チャネル別ユニット分析
- シリーズB以降:セグメント別、商材別のスケールシナリオ設計
応用・発展的な使い方
- `チャネル別ユニットエコノミクス`:広告/紹介/セミナー経由で分解分析
- `顧客セグメント別設計`:SMB向けとEnterprise向けで利益構造を分離
- `プロダクトレベルの分解`:有料プランA・B・C別にLTV/CACを比較
- `経営会議用ダッシュボード`:Looker StudioやNotionで指標定点観測
よくある誤解と注意点
- 「売上が伸びていればOK」→ ユニットが赤字なら規模が増えるほど損失も増大
- 「LTV/CACは1回測ればよい」→ 市場・価格・チャーンの変動に応じて常に変化する
- 「業界平均に合わせればOK」→ 自社の戦略やステージに合った目標設計が必要
まとめ
ユニットエコノミクスとは、“1人の顧客とどう付き合うか”という問いの答えです。
企業全体の成長性や持続可能性を定量的に可視化し、「いま売れている」ではなく「ちゃんと儲かっている」かどうかを判断できます。
グロースを支えるのは、“スケールしても破綻しない”収益構造。
その骨格を描くのが、ユニットエコノミクスというレンズなのです。