全部原価計算
公開日: 2025/10/24
全部原価計算とは?企業の総費用を製品に割り当てる会計手法
はじめに
企業経営において、製品やサービスの原価を正確に把握することは極めて重要です。全部原価計算は、この課題に対する一つの解決策として広く用いられている会計手法です。本記事では、全部原価計算の概念、特徴、そして実務での適用方法について詳しく解説します。
基本情報・概要
全部原価計算とは、企業の総費用を製品やサービスに全て割り当てる原価計算方式です。この方法では、直接費だけでなく、間接費も含めたすべての費用を製品原価に算入します。製品の完全な原価を把握し、適切な価格設定や利益管理を行うために用いられます。
比較・分類・特徴の表形式まとめ
| 項目 | 全部原価計算 | 直接原価計算 |
|---|---|---|
| 対象費用 | 全ての費用(直接費+間接費) | 変動費のみ |
| 固定費扱い | 製品原価に含める | 期間費用として扱う |
| 利点 | 総合的な原価把握が可能 | 変動費と固定費の区別が明確 |
| 欠点 | 固定費配賦の恣意性がある | 製品の完全な原価が把握しにくい |
| 適用場面 | 長期的な価格設定、財務諸表作成 | 短期的な意思決定、損益分岐点分析 |
全部原価計算は、企業の全ての費用を考慮するため、製品の完全な原価を把握するのに適していますが、固定費の配賦方法に恣意性が生じる可能性があります。
深掘り解説
全部原価計算のプロセスは以下の手順で行われます:
-
費用の分類
- 直接費:原材料費、直接労務費など
- 間接費:工場管理費、減価償却費など
-
原価計算単位の設定
- 製品別、部門別、プロジェクト別など
-
直接費の割り当て
- 各原価計算単位に直接費を割り当てる
-
間接費の配賦
- 適切な配賦基準(労働時間、機械稼働時間など)を用いて間接費を配賦
-
総原価の算出
- 直接費と配賦された間接費を合計して総原価を求める
例えば、ある製造業で2種類の製品A、Bを生産している場合:
直接材料費:A 100万円、B 150万円 直接労務費:A 80万円、B 120万円 間接製造費:200万円(労働時間に基づいて配賦) 労働時間:A 1000時間、B 1500時間
間接製造費の配賦: A:200万円 × (1000 / 2500) = 80万円 B:200万円 × (1500 / 2500) = 120万円
総原価: A:100万円 + 80万円 + 80万円 = 260万円 B:150万円 + 120万円 + 120万円 = 390万円
応用・発展的な使い方
全部原価計算は、以下のような場面で活用されます:
- 製品価格の設定
- 財務諸表の作成(棚卸資産評価)
- 長期的な事業計画の立案
- 部門別の業績評価
また、活動基準原価計算(ABC)のような、より精緻な原価配賦方法と組み合わせることで、より正確な原価情報を得ることができます。
よくある誤解と注意点
-
全ての状況で最適というわけではない
- 短期的な意思決定には直接原価計算が適している場合もある
-
固定費配賦の恣意性
- 配賦基準の選択によって結果が大きく変わる可能性がある
-
過剰生産のリスク
- 固定費を製品に配賦することで、在庫を増やすインセンティブが生まれる可能性がある
-
原価の歪み
- 少量生産品に過大な間接費が配賦される可能性がある
まとめ
全部原価計算は、企業の全ての費用を製品やサービスに割り当てる会計手法です。長期的な価格設定や財務諸表作成に適していますが、固定費配賦の恣意性には注意が必要です。正確な原価情報を得るためには、企業の特性や目的に応じて適切な原価計算方法を選択し、必要に応じて他の手法と組み合わせることが重要です。今後は、デジタル技術の進歩により、より精緻で迅速な原価計算が可能になると期待されています。